「人みな仏の化身」
先日、経営者の方々に「江戸の商人しぐさと商人道」というテーマでお話をさせていただく機会がありました。立派な経営理念をお持ちの方々ですので「釈迦に説法」と思いながらお話ししました。中でも、特にお伝えしたかったのは「人みな仏の化身」という商人のリーダーたちの心構えでした。
そこで、今回は「人みな仏の化身」について書きたいと思います。
江戸時代は、武家に倣うように庶民の間でも仏教や神道が広まり、寺子屋では儒教の教えも取り入れられていました。そして、それぞれの教えは混ざり合って、当時の社会のしくみや日常生活にうまく溶け込んでいました。そして、その根底には商人しぐさでも伝えられている「人みな仏の化身」という心構えがありました。
「人みな仏の化身」とは、「目の前にいる人を仏様の化身と思えば、どんな人にも優しくできる」という考えです。 化身というのは、、世の中の人を救うために人間に姿を変えて現れた仏様のことです。目の前の人が高価な服を着ていようが、みすぼらしい格好をしていようが、差別をしてはいけない。ひょっとすると、仏様が姿を変えて自分を試しているのかもしれない。そう思えば誰に対しても親切にできるはずだと考えていました。また、全ての人は、仏様や神様、そしてご先祖様さまたちに見守られて生きていて、ご先祖様どうしどこかでつながりがあったかもしれない。そう考えれば、たとえ初めて会った人であっても、親切にできるはずだとも考えていました。
このことは商売をする上でも、「人みな仏の化身」と考えて、たとえ老舗であっても、お客様を差別したり、見下したりしないで互角のつき合いをすることを基本としていました。
私は、この「人みな仏の化身」の意味するところは、単に「人を差別してはいけないということだけではないと思っています。 特に、経営者なや人の上に立つ人こそ常に「ひょっとすると自分は試されているのかもしれない」という意識を持って、おごることなく、時には立ち止まって、経営のあり方を見つめ直すことが必要なのではないでしょうか。
近年増えている「今だけ、金だけ、自分だけ」の「三だけ経営」に陥らないためにも。