「“心遣い”と“会釈のまなざし”」
先日、五輪チケットの受付が開始し、アクセスが集中してログインできないほどでした。 オリンピック招致が決まってからというもの、「おもてなし」に対する関心が高まり、「おもてなし」という言葉を聞かない日はありません。特に外国からの訪問客を心を込めて温かくおもてなしすること自体は素晴らしいことであることは言うまでもありません。
しかし今回は、「おもてなし」以前にもっと日常の生活の中で大切にしてほしい「心遣い」と「会釈のまなざし」についてお話ししたいと思います。
ところで、皆さんは雨の日に細い道で傘をさしてすれ違う時、どのようにすれ違っていますか?
傘がぶつかっても平気な人、雨の滴が相手にかかっても気にしない人、道を譲ろうとしない人って意外といますよね。雨の日の傘のさし方やすれ違い方を考えたことも教えてもらったこともなければ、このような人が増えるのは不思議ではありません。
実は、雨の日、狭い道で傘をさしてすれ違う時のしぐさを「傘かしげ」と言います。
傘が相手に当たったり、雨の滴が相手にかかったりしないように、お互いの傘を人のいない外側に傾ける。相手を思いやる心から生まれたこの「傘かしげ」は、江戸しぐさを代表する往来しいぐさのひとつで、以前は誰もが当たり前のようにできていました。
この「傘かしげ」を通して皆さんに知っていただきたいのは、このしぐさは「心遣い」と「会釈のまなざし」が基本になっているということです。 特に、「会釈のまなざし」は、気遣ってもらったことへの感謝の気持ちを込めて笑顔で軽く会釈をしてすれ違うことです。
「会釈」は本来、仏教用語の「和会通釈」を略した言葉で、異なる教典の中で内容が共通する部分をすり合わせることを言いました。お互い見ず知らずの関係でも,同じ人間だから好意を示し合えるという意味が含まれています。
無関心や無愛想を嫌った江戸の人々は、町ですれ違う時、どちらからともなく優しい眼差しを相手に投げかけたそうです。 声に出すばかりが挨拶ではありません。会釈に伴う優しい眼差しは、その場の雰囲気を一瞬にして和らげる力があります。
例えば、朝のジョギングや山登り、海外で日本人旅行者とすれ違う時など、私たちは見ず知らずの人にも軽く会釈をし、自然とその場を和ませています。
しかし最近は、日常生活の中でこのような「心遣い」や「会釈のまなざし」ができない人があまりにも多いことが気になっています。
例えば、電車から降りてエスカレーターの列に入れてもらいたい時、能面のような表情で無言のまま列に入り込んでくる人がなんと多いことでしょう。「どうぞ!」とちょっとした「心遣い」と「会釈のまなざし」をするだけで、お互いに気持ちよく列に入れるのではないでしょうか。
バスや電車で、お店や職場で・・・、ちょっとした「心遣い」と「会釈のまなざし」がギクシャクした人間関係を和らげ、さらには社会を明るくするのではないでしょうか。
そのためには、まずは自分から行動することにいたしましょう。 ちょっとした「心遣い」と「会釈のまなざし」が少しずつ感染して広がっていくことを期待して・・・・・。