「江戸寺子屋の段階的養育法~九つ言葉」
昨年の暮れ、NHKニュースで「過熱;子どもの“英語力”~早い方がいい!?」と題して放送していました。「英語保育園」が各地でキャンセル待ちだったり、「海外留学フェア」で目立つのは小学生連れの親子だったり・・・。これは来年度から小学校5・6年生から英語が教科となるため、低年齢での海外留学が増えているというのです。このことの是非について考えるのは別の機会に譲るとして、今回は子どもに言葉を教えることについて江戸の商人たちはどのように考えていたのかご紹介しましょう。
【九つ言葉】
◆「江戸寺子屋・段階的養育法」の第三段階は「九つ言葉」です。
言葉づかいは商人にとってとても大事なことで、「商人の才覚(すばやく頭を働かせて物事に対応する能力)は言葉づかいで決まる」と言われたほどでした。ですから、商家の子どもは九歳になる頃までには、どんな人に対しても失礼のないものの言い方ができるようにしつけることが親の務めでした。 そのため、商人の言葉づかいはとても丁寧でした。テレビの時代劇に出てくるような「てやんでぇ、べらぼうめ」と言った、いわゆる「べらんめえ調」は職人言葉で、江戸の商人たちは決してこのような言葉は使いませんでした。「さようでございます」などとても丁寧な言葉を使っていました。 こうした丁寧な言葉を子どもたちが身につけられるよう、周りの大人たちが手本となり、いつしか身につきクセとなるようにしつけたのです。
◆このように、江戸の商家では、九歳になるまでに商人の子どもとして恥ずかしくない言葉のやりとりができるようにしつけたというのですから驚きです。 「九歳までに世辞が言えて一人前」 世辞とは、今で言うゴマすりや心にもない誉め言葉ではなく、「こんにちは」や「こんばんは」などの挨拶のあとに、相手を気づかうひと言をつけ加えることです。
今は社会人になっても挨拶ができない人がいるのですから、ましてや世辞なんて無理かもしれませんね。でも、親の日ごろの姿を見ていれば、5・6歳の子どもでも世辞が言えるようになるものです。例えば、ご近所の人に自分から挨拶をしたりするのはもちろん、マンションであれば、お掃除の人にも声をかけたり、「こんにちは」のあとに、「いつもありがとうございます」と声をかけたりできるようになるものです。
このように、「九つ言葉」は、どんな人に対しても失礼のないものの言い方や対応(振る舞い)ができるようにすることだったのです。
いかがですか? 冒頭の「過熱:子どもの“英語力”~早い方がいい!?」に戻ると、2017年に「ELT Teacher Award」を受賞した英語教育のエキスパートである嶋津幸樹さんは次のように言っています。
「思考は日本語で!思考を深めて引き出すのは日本語(母語)です。日本人にとって日本語は財産であり、宝物なのです。日本語で深めた思考を英語に置き換えて発信する力、つまり自分で切り開く英語力が必要なのです」と。
思考をしっかり深めるための日本語(母語)を身につけることができるかどうかは「9歳の壁」を
乗り越えることができるかどうかです。 9歳までに“英語力”よりも“日本語力”を身につけさせたいものですね。