「江戸の商人たち:近江商人」
コロナウイルスが感染拡大し続けて、すでに1年以上経ちました。 その間に見聞きしたのは、いとも簡単に切り捨てられて失業した人たちの悲痛な声でした。 一方、社員を大切にしない経営者たちのなんと多いことか。 政治家や官僚の劣化がささやかれていますが、経営者たちにも言えるのではないでしょうか。(もちろん、ごく一部を除いてということですが)
そこで今回は、江戸の商人たちの中から「近江商人」の経営理念について紹介したいと思います。
【近江商人】
◆近江商人は、近江の国(現在の滋賀県)出身の商人で、大阪商人・伊勢商人と並ぶ三大商人の一つです。 1600年代に急成長を遂げた江戸は、人口も一挙に増え、人々の生活を支える食料や衣料の供給が追いつきませんでした。 そのため、生活必需品の多くは上方に頼らざるを得ませんでした。
そんな中、最も商売上手だったとされたのが近江商人でした。 「近江の千両天秤」という慣用句があるように、近江商人には天秤棒1本で大きな富を得る商才があったと言われています。
【「家訓」に見る商人としての姿勢】
◆東京・日本橋。その橋のたもとに店を構え、江戸で成功を遂げた近江商人がいました。 400年余りの歴史を持つ寝具の専門販売店「西川」です。 その西川家の家訓をご紹介します。
《西川家の家訓》
①「江戸幕府の決めた法律はしっかり守りなさい」
②「江戸の奉公人たちは心を一つにして、仲睦まじくしなさい」
➂「品質をよく吟味したものを売るようにし、あまり利潤を追わないようにすべきである」
④「「何より世間に害のある行為をしてはならない」
◆第一の家訓「法律を守れ」というのは、まさにコンプライアンス(法令遵守)であり、ルールに従って、公平・公正に商売を行うことであり、第四の家訓は「CSR」(Corporate Social Responsibility)つまり「企業の社会的責任」について明確に記しています。
家訓の中で特に重要とされてきたのが、「世間に対する姿勢」でした。 これは近江商人すべてに通じるものであるといえます。 そして、近江商人のこの商いのやり方を象徴的に表したのが、「売り手よし、買い手よし、世間よし」と言われる「三方よし」の精神なのです。
【「三方よし」の精神】
◆それでは、「三方よし」の精神とは、どのようなものなのでしょうか。
「三方よし」は、近江商人研究家の故小倉英一郎氏が作った言葉で、近江商人で麻布商の中村治兵衛が70歳になった時に養嗣子の宗治郎宛に書いた家訓が原典になっています。
そこには、「たとへ他国への商内(あきない)に参り候ても、その商内の物この国の人一切の人々、心よく着申され候ようにと、自分のことに思わず、皆人よき様にと思い」とあり、自分のことよりもお客のことを考え、みんなのことを大切にして商売をすべき、という風に書かれています。
◆企業の社会的責任(CSR)が強く言われるようになった昨今、近江商人が大切にしていたこの「三方よし」の考え方が注目されています。