「近江商人の家訓」

天秤棒を担いだ一介の行商人から豪商へと成長した近江商人たち。
近江商人たちに受け継がれてきた家訓や店則には永い商売の実践を通じて得た信念が盛り込まれています。
近江商人の家訓は、お金儲けの秘訣が記されているものではありません。
代々の党首が子供い信用や信頼の重要性、勤労や勤勉の大切さ、そして質素倹約など、いつの時代にも人として必要とされる基本的なことを求めています。
ですから、「失われた30年」といわれる経済状況の中で自信や信念を見失っているように見える企業経営者たちにとって、近江商人の家訓から学べることが多いのではないでしょうか。
そこで今回は、近江商人の家訓を全体的にご紹介したいと思います。

【三方よし】
◆「三方よし」(売り手よし・買い手よし・世間よし)は、近江商人の商人道を象徴する言葉です。
売り手と買い手の双方のみの合意だけでではなく、行商先を含めた世間に利益を提供すること。つまり、世の中から求められ必要とされる正当な商いを心がけていました。
この「三方よし」の理念には、時代を越えた普遍性や有効性があり、近江商人の高い倫理性や社会貢献は、近年改めて注目されています。

【始末して気張る】
◆「始末して気張る」は近江商人に共通の心構えです。
倹約に努めてムダを省き、普段の生活の支出をできるだけ抑え、勤勉に働いて収入の増加を図る生活をを表現しています。
「始末」は、単なる節約ではなく、モノの効用を使い切ることが真にモノを生かすことになるのだということです。
「気張る」は近畿地方では「お気張りやす」という挨拶に使われているくらい日頃から親しまれている言葉で、近江商人の転生を一言で表現しています。

【信用と正直】
◆今昔にかかわらず、商人にとって何よりも大切なのは「信用」です。そして、信用の元となるのは「正直」です。
外村与左衛門家の「心得書」でも、正直は人の道であり、若い時に早くこのことをわきまえた者が、人の道にかなって立身できると説いています。
「阿呆時期」は、行商から出店開設へと長い年月をかけて地元に根づいて暖簾の信用を築き、店内においては相互の信用と和合(親しみ合って仲良くする事)を図るための基でした。

【陰徳善行】
◆「陰徳善行」とは、人に知られないように善行を施すことです。
「陰徳」はやがては世間に知られ、陽徳に転ずるのですが、近江商人は社会貢献の一環として治山治水、道路改修、貧民救済、寺社や学校教育への寄付盛んに行いました。
文か2年(1818年)、中井正治右衛門は瀬田の唐橋を一手架け替え完成しました。一千両を要した工事の指揮監督に自らあたり、後の架け替え費用を利殖するために二千両を幕府に寄付しました。

◆以上、簡単に「近江商人の家訓」を簡単にご紹介しました。他にも多くの味わい深い言葉がたくさん残されています。
時代や社会が変わっても、常に世間を重視する視点で商いを続けてきた近江商人の「哲学」は、今日に脈々と息づいています。
機会がありましたら、また「近江商人の家訓」についてご紹介したいと思います。